すでに会社を設立しているものの、定款を変更する必要があるため昔の定款を確認しておきたいと思うこともあるかもしれません。
また、なんらかのアクシデントで会社に保管していたはずの定款が見当たらないことも考えられます。
会社の定款は法務局であれば見られる可能性はありますが、実はそう簡単な話ではありません。
ここでは、定款やその雛形の入手方法を、基本的な知識にも触れながら詳しく解説します。
そもそも定款とは何か
前提となる知識として、そもそも定款とは何か、具体的にどのようなことが記載されているのかといった基本的な部分を解説します。
会社の基本的なルールを定めたもの
定款とは、会社や公益法人等の法人の目的、組織、活動を含めた基本的な規則、およびそれを書面や電磁的記録(DVDなど)にまとめたものです。
簡単にいうと「会社を運営していく上での基本的なルールをまとめたもの」と考えましょう。
会社の種類を問わず作成する必要がありますが、公証役場で認証を受ける必要があるのは株式会社の定款のみとなっています。
株式会社は所有と経営が分離していることからトラブルが起きやすいため、定款の内容が不適切でないかを確認する必要があるためです。
一方、合名・合同・合資会社の場合は基本的に所有と経営が同一であるため、株式会社に比べるとトラブルが起きにくいと考えられることから、定款の認証も不要になっています。
3種類の記載事項
会社などの法人を設立する場合に作成する定款には、記載する内容が法律により定められています。具体的には、以下の3種類に分類可能です。
- 絶対的記載事項:定款に必ず書く必要がある項目のこと。1つでも漏れがあったら定款全体が無効になる。
- 相対的記載事項:定めがあるなら定款に載せなくてはいけない項目のこと。載せなくても定款自体は無効にはならないが、その規則の効力が認められないので注意。
- 任意的記載事項:絶対的記載事項、相対的記載事項以外の事項。法律や公序良俗に反しない限りは自由に決めてよい。
具体的な項目についてもまとめたので、参考にしてください。
分類 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
絶対的記載事項 | 目的 | 会社として営む事業の目的を書く |
商号 | 「株式会社〇〇」「■■合同会社」といった社名のこと | |
本店所在地 | 登記上の本拠地を書く | |
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額 | 資本金に充当する財産額を書く | |
発起人の氏名または名称および住所 | 間違えないように正確に書く。印鑑証明書を参考にするとよい | |
相対的記載事項(一例) | 発起人が受ける特別利益とその発起人の氏名 | 該当者がいれば書く |
現物出資する財産、価格とそのものの氏名 | 該当者がいれば書く | |
財産引受 | 発起人が設立中の会社のために将来の財産の譲受を約束した場合に書く | |
発起人の報酬 | 発起人が会社を設立するために作業した場合、それに対する報酬を書く | |
設立費用 | 会社を設立するために必要な費用の合計を書く | |
任意的記載事項(一例) | 定時株主総会招集時期 | 株主総会の招集時期について書く |
株主総会の議長 | 議長を誰にするのかについて書く | |
事業年度 | 何月から何月までかを定める | |
その他 | 法律や公序良俗に反しない限り自由に記載可 |
原始定款と現行定款の違い
関連する知識として、原始定款と現行定款の違いについても知っておきましょう。
原始定款とは、会社を設立する際に最初に作成された定款のことを指します。
一方で、現行定款とは、変更などを経て現在有効な内容となっている定款を意味します。
通常、定款に記載されている情報に変更があった場合には、必ず定款変更の手続きが必要です。
特に株式会社では以下のような場合に変更が必要となります:
- 本店所在地を移転した場合
- 役員の人数や任期を変更した場合
- 事業目的や社名(商号)を変更した場合
【結論】定款は法務局で入手できない
定款について理解を深めたところで、「法務局で定款を入手できるのか?」という疑問にも触れておきましょう。
結論として、定款そのものを法務局で入手することはできません。
ただし、一定条件下では法務局で定款を閲覧することは可能です。
期間限定の閲覧ならOK
法務局では定款を入手することはできませんが、「登記申請の日から10年間」に限り閲覧が可能です。
(商業登記規則第34条第4項第4号に基づく)
なお、閲覧できてもコピーの交付や複写はできません。ただし、法務局によっては撮影(デジタルカメラなど)が可能な場合があります。
閲覧を請求するには法務局に出向く必要がある
定款を閲覧したい場合は、法務局に出向く必要があります。窓口に「附属書類閲覧申請書」が用意されているため、必要事項を記載して提出しましょう。なお、手数料として450円が必要になりますが、これは収入印紙を貼付して支払う流れです。
また、発起人や役員以外の人が申請する場合、閲覧しようとする定款と「利害関係」にあることを示す必要があります。簡単にいうと、正当な理由がないと定款の閲覧はできません。会社の株主、債権者だからという理由ではなく、法務局に保管されている定款自体の有効性を争うなど、相応の理由がなくてはいけません(法務省民商第98号民事局長通達・第99号依命通知)。 相応の理由がないと判断されると申請自体が却下されることもあるため注意しましょう。
定款の雛形は法務局で入手可能
会社の定款を法務局で手に入れることはできませんが、定款の雛形=テンプレは法務局で手に入れることができます。
法務局のWebサイトでも公開されているため、これから定款を作る場合は参考にしましょう。
参照:添付書面の記載例【株式会社設立登記申請書(取締役会を設置しない会社の発起設立)】|法務局
定款の謄本は公証役場で入手・閲覧できる
法務局でできるのは定款の閲覧であり、謄本=コピーを入手することはできません。定款の謄本を入手したい場合は、公証役場に出向くのが現実的な選択肢になります。ここでは、具体的な手続きや注意点について詳しく解説します。
公証役場に申請する
まず、なぜ公証役場に申請すれば定款の謄本が手に入るのか、法律の規定にも触れながら解説しましょう。
株式会社の定款など、一定の法人の定款は公証役場で認証を受けなくてはいけません。そして、認証を受けた定款はその後20年にわたり公証役場で保管されます。保管されている間であれば、原本の閲覧や謄本の交付を請求できる仕組みです(公証人法施行規則27条1号、公証人法62条ノ5、60条ノ4、51条ないし56条)。
なお、定款が保管されているのはあくまで「定款認証をした公証役場」であることに注意が必要です。どこで定款認証をしたのかを事前に確認しましょう。
誰でも請求できるわけではないため注意
定款の謄本は、誰でも請求できるわけではありません。以下のいずれかに当てはまる必要がありますが、自分が該当するかを確かめるには事前に公証役場に確認しておきましょう。
- 当該定款の認証の嘱託人(公正証書の契約当事者等、定款の署名または記名押印者(発起人など))
- 嘱託人の承継人(相続人、債権譲受人など)
- 当該定款について「法律上の利害関係」のある人
用意すべき書類等は?
定款の謄本を請求する際は、立場によっても用意すべき書類が変わってきます。
請求人自身が行う場合 | 本人確認資料 |
請求人の代理人が行う場合 | 請求人の委任状と印鑑証明書・代理人の本人確認資料 |
本人確認資料として使えるものの例は以下のとおりです。
項目 | 備考 |
印鑑証明書(印鑑登録証明書)と実印 | 印鑑証明書は発行後3カ月以内のもの |
官公署が発行した顔写真付きの身分証明書 | 具体例は以下のとおり 運転免許証、運転経歴証明書小型船舶操縦免許証船員手帳マイナンバー(個人番号)カード住民基本台帳カード(顔写真付き)パスポート身体障害者手帳外国人登録証明書(外国籍の場合)在留カード(外国籍の場合) |
また、請求人が「法律上の利害関係」のある人であった場合は、そのことを証明する資料が必要です。ただし、具体的に必要な資料は公証人に確認しましょう。
現行定款でない可能性もある
公証役場で保存されているのは、あくまで最初の定款=原始定款であることに注意しなくてはいけません。会社の設立から長い期間が経っているために、定款に書かれている内容が変化していて、現行定款と大きく異なることも考えられるため、その点にも注意しましょう。
定款をなくした場合の正しい対応は?
定款は本来、会社の本支店に常に保管しておかなくてはいけないものです。そのため、会社のどこかを探せば基本的には出てくるでしょう。しかし、なんらかの理由で紛失してしまうことも当然あり得ます。
ここでは、定款をなくしてしまった場合の正しい対処法について解説するので、困っているならぜひ参考にしてください。
法務局での閲覧
1つ目の対応として考えられるのは「法務局での閲覧」です。登記申請の日から10年間であれば閲覧が可能となっているため、デジタルカメラやスマートフォン(カメラ機能付き)を持って出向きましょう。撮影したデータから文字を起こせば定款が復元できるはずです。
ただし、復元できるのはあくまで原始定款に過ぎません。復元した結果現状と異なるようだったら、その定款を現状に合うよう変更する必要が出てきます。
公証役場での請求
2つ目の方法は「公証役場での請求」です。前述したように、公証役場であれば定款の謄本を請求できるため、法務局のときのようにデジタルカメラを持って出向く必要はありません。ただし、保管されているのはあくまで原始定款である以上、現状と合わない部分があれば定款の変更が必要になります。
また、定款の保存期間は原則20年と定められているため、設立されてから日が経っていた場合、この方法が使えないこともある点に注意してください。
同一の情報の提供の請求手続き
3つ目の方法は、同一の情報の提供の請求手続きです。これは、電子認証制度のオンラインシステムでできる、電子定款で認証を受けた場合には後からその電子文書の謄本を請求できるというものです。
ただし、会社を設立する際に、司法書士などの専門家に手続きを依頼し、電子定款の作成・認証を行った場合でないと行えません。依頼した専門家に相談してみましょう。
参照:法務省:1.5 同一の情報の提供の請求
また「同一情報の提供」の請求手続きをしなくても、依頼した専門家が作成した定款のデータを持っていることは十分にあり得ます。まずは事情を話してみるとよいでしょう。
定款の再作成
4つ目の方法は「定款の再作成」です。ここまで紹介してきた方法を使えば、定款を見る、コピーを手に入れることはできるかもしれませんが、あくまで「原始定款=会社を設立したときの定款」に過ぎません。
会社を設立してから日が経っていて、事業内容が変わったり、役員として新しい人が加わったりしていたのであれば、実態に合ったものにアップデートする必要が出てきます。そのような背景を考えると、定款を作り直したほうが早いかもしれません。
まず、定款を作り直す際は、以下の書類を用意しましょう。
- 最新の履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
- 原始定款や古い定款
- 過去開催された株主総会議事録や取締役会議事録
これらの書類を突き合わせて、古い定款を現状に合ったものにアップデートしていき、原案を確定させます。
そして、原案が確定したら以下の流れで株主総会を開催し、登記まで済ませるようにしてください。
株式会社の場合、以下の流れで定款を変更しなくてはいけない点に注意してください。
- 1.株主総会を開催する
- 2.定款変更の特別決議を行う
- 3.株主総会の議事録を作成する
- 4.定款変更のための変更登記を行う
- 5.変更定款と議事録を保管する
ちなみに、定款を変更するためには株主総会の特別決議により承認を得なければいけません。つまり、以下の条件を満たす必要があります。
- ・議決権を行使できる株主の過半数を有する株主が出席する
- ・出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が得られる
例えば、株主として以下の3人がいたとします。
- ・Aさん(6株保有)
- ・Bさん(5株保有)
- ・Cさん(4株保有)
この場合、過半数は8株(= 15株 × 2分の1 = 7.5株)となるため、出席したのが誰か1名だけだった場合は定足数に足りず、決議には至りません。また、AさんとCさんが出席した場合、Aさんが決議に反対すれば否決されます(10株 × 3分の2 = 6.666…株 → 7株となるため)。
なお、株式会社の定款を作り直した場合であっても、公証役場での認証を受ける必要はありません。
まとめ
法務局では、定款の雛形を入手することはできるものの、定款自体は閲覧しかできません。定款の謄本を入手したい場合は公証役場に出向くことになります。ただし、利用にあたってはさまざまな制約が設けられている上に、保管されているのは原始定款に過ぎない点にも注意が必要です。現実的な問題として、定款を紛失した場合は再作成も視野に入れて対応するのがおすすめです。
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