合資会社とは、会社形態の一種で、有限責任社員・無限責任社員1名ずつで設立できるものを指します。実際のところ、会社設立にあたってはあまり選ばれませんが、あえて合資会社を選ぶべきケースもあるのが事実です。
この記事では、合資会社の特色やほかの会社形態との違い、設立する方法やメリット・デメリットについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
そもそも合資会社とは
合資会社は、最低でも無限責任社員と有限責任社員各1名ずつ、合計2名の出資者が必要になる会社形態のことです。ここではまず、無限責任社員と有限責任社員の違いや設立の手順を理解しましょう。
無限責任社員とは
無限責任社員とは、会社が債権者に対して負う債務の弁済について、個人的に連帯する義務を有する社員のことを指します。
つまり、会社が倒産したなどの理由で債務が返済できなくなった場合は、無限責任社員がすべて返済しなくてはいけません。私財を投げ打つのはもちろん、足りない場合は借入をしてでも返済する必要が出てきます。
有限責任社員とは
有限責任社員とは、会社が債権者に対して負う債務の弁済について、出資額の範囲内で返済する義務を有する社員のことを指します。
つまり、万が一会社が倒産したとしても、無限責任社員とは異なり、私財を投げ打ってでも返済する必要はありません。ただし、会社に出資した金額は戻ってこない点に注意が必要です。
合資会社を設立する手順
ここで、合資会社を設立する手順について、簡単に理解しておきましょう。一般的な流れは以下のとおりです。
- 1.会社の商号や所在地を決める
- 2.出資金を準備する
- 3.損益の分配割合を決める
- 4.役員を選ぶ
- 5.定款を作る(ただし認証は不要)
- 6.法務局で登記申請手続きを行う
合資会社とほかの会社形態の違い
現在の日本の法律では、合資会社以外に設立できる会社の形態として株式会社・合同会社・合名会社の3つが認められています。なお、2006年の会社法改正に伴い、それまで認められていた有限会社を新規に設立することはできなくなりました。
ここでは、合資会社とそのほかの会社形態の違いについて詳しく解説します。
株式会社と合資会社の違い
株式会社とは、出資者から資金を集めて経営する傍ら、出資者への見返りとして株式を発行するのが特徴の会社形態です。会社は集めた資金をもとに商品・サービスの提供を行い、得られた利益は出資額に応じて分配します。
ただし、あえて利益を分配せず、再投資に回していく会社もあるため、必ず分配されるとは限りません。また、株式会社の場合純資産が300万円未満の場合はそもそも配当ができないため、中小企業では配当が行われないことも多くなっています。
合資会社と株式会社の最大の違いは「出資者と経営者」の立場です。合資会社では「出資者=経営者」という状態が成立していますが、株式会社では「出資者≠経営者」という状態になっています。また、設立にあたって定款の認証が必須であるなど、株式会社に対する法規制は合資会社に比べるとはるかに厳しいのも特徴です。
合同会社と合資会社の違い
合同会社とは、出資者が自ら経営者として経営に携わる会社形態の一種です。
出資者が経営に携わるという意味では合同会社と合資会社は似ていますが、合同会社の社員は全員有限責任社員であるという点で大きく異なります。
なお、合同会社は2006年の会社法施行によって生まれた比較的新しい会社形態です。
アメリカのLLC(Limited Liability Company、有限責任会社)をモデルにして生まれたことから、「日本版LLC」といわれることもあります。
合名会社と合資会社の違い
合名会社とは、すべての出資者が無限責任社員となる形で設立される会社形態の一種です。
有限責任社員も一定数いる合資会社とは異なり、合名会社には有限責任社員はいないという点で大きく異なります。実態がほとんど個人事業主と変わらないという点で、会社を設立する際の形態として合名会社は選ばれにくいのも事実です。
4つの会社形態の比較表
ここまで紹介してきた4つの会社形態について、さまざまな観点から比較できる表を作成したので、参考にしてください。
項目 | 株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 |
資本金 | 1円以上 | 1円以上 | 規定なし | 規定なし |
出資者 | 1人以上 | 1人以上 | 2人以上 | 2人以上 |
責任の範囲 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任・無限責任 | 無限責任 |
最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員の過半数 | 社員の過半数 | 社員の過半数 |
決算公告義務 | あり | なし | なし | なし |
登記書類の種類 | 定款 | 定款 | 定款 | 定款 |
上場の可否 | できる | できない | できない | できない |
役員の任期 | 規程あり | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
合資会社を設立する4つのメリット
実際のところ、日本で会社を設立する際は、株式会社もしくは合同会社が選ばれることが多くなっています。そのような状況で、あえて合資会社を設立するメリットとして、以下の4点について解説します。
メリット①設立費用がリーズナブル
合資会社を設立する1つ目のメリットとして挙げられるのは「設立費用がリーズナブル」であることです。株式会社に比べ、合資会社は設立費用が格段に安くなっています。
項目 | 株式会社 | 合資会社 |
定款用収入印紙代(※1) | 40,000円 | 40,000円 |
定款用謄本手数料 | 約2,000円 | 0円 |
定款認証手数料 | 30,000~50,000円(※2) | 0円 |
登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 |
※1:電子定款の場合は不要。ただし、電磁的記録の保存手数料として、1回につき300円がかかる。
※2:資本金の額によって異なるため要確認。
※3:もしくは資本金×0.7%のいずれか高いほう
紙の定款であれば10万円程度、電子定款を使えば6万円程度で合資会社を設立できます。ただし、手続きを行政書士や司法書士に依頼した場合はその分の報酬もかかることに注意してください。
メリット②定款の認証がいらない
合資会社を設立する2つ目のメリットとして挙げられるのは「定款の認証はいらない」ことです。
定款とは、法人の目的、組織、活動の基本的な規則をまとめた、いわば「会社のルールブック」に当たるものです。
合資会社であっても定款を作る必要はありますが、株式会社のように認証を受ける必要はありません。
ここでいう認証とは、作成した定款の正当性を証明する手続きです。簡単にいうと、本社の所在地と同じ都道府県にある公証役場に定款を提出し、問題がないかチェックしてもらうことを指します。
以下の法人であれば定款の認証を受ける必要がありますが、合資会社は当てはまりません。
- ・株式会社
- ・一般社団法人及び一般財団法人
- ・税理士法人 / 司法書士法人 / 行政書士法人 / 土地家屋調査士法人 / 社会保険労務士法人 / 弁護士法人 / 監査法人 / 特許業務法人 / 特定目的会社 / 相互会社 / 金融商品会員制法人
- ・信用金庫、信用中央金庫及び信用金庫連合会
なお、合資会社に加え、合名会社・合同会社でも定款の認証は不要になっています。経営と所有が一致しているため、設立後の紛争目的、不正防止等の必要性が株式会社に比べると薄いためです。
メリット③資本金もいらない
合資会社を設立する3つ目のメリットとして挙げられるのは「資本金が不要」であることです。株式会社や合同会社とは異なり、合資会社を設立する際に資本金は必要ありません。代わりに、現物出資ができる決まりになっています。これは、会社設立や増資にあたって、現金の代わりに車や不動産など金銭的な価値があるものを代わりに出資することです。具体的に出資できるものとして、以下のものが考えられます。
-
- ・自動車
- ・不動産(土地、建物)
- ・機械設備
- ・パソコン・タブレットやOA機器
- ・債券
- ・有価証券
- ・無形固定資産(営業権や商標権など)
極端な話、現金がまったくなくても合資会社を設立し、営業を続けることは可能です。
ただし、上記に当てはまるものでも、ローンの返済中だったり、名義変更ができなかったりする資産は対象にならないこともあります。また、現物出資の総額が500万円を超える場合は、裁判所から派遣された検査役による調査を受けなくてはいけません。
実際のところは、合資会社であっても事業を円滑に進めていくためには、ある程度の資金があるに越したことはないでしょう。
メリット④定款は基本的に自由に決められる
合資会社を設立する4つ目のメリットとして挙げられるのは「定款は基本的に自由に決められる」であることです。
株式会社の定款とは違い、合資会社の定款は公証役場での認証を受ける必要がありません。合資会社など、所有と経営が一致している会社の場合、株式会社のように所有と経営が分離している会社に比べると紛争が起きるリスクは低いと考えられているためです。
ただし、会社法など関連する法律に違反する内容の定款を定めることはできません。そのため、合資会社であっても定款を作成した後は、司法書士など法律の知識のある専門家に確認してもらうほうがよいでしょう。
合資会社を設立する3つのデメリット
合資会社を設立することにはメリットがある一方で、デメリットもあることに注意が必要です。ここでは、合資会社を設立するデメリットとして以下の3点について詳しく解説します。
デメリット①無限責任社員は負債を全額支払う
合資会社を設立する1つ目のデメリットとして挙げられるのは「無限責任社員は負債を全額支払う」ことです。
万が一会社が倒産するなどして、債権者(例:借入をした金融機関など)への弁済が滞った場合、無限責任社員は連帯責任を負います。つまり、私財をつぎ込んだり、個人として融資を受けたりしてでも、会社としてつくった債務を返済しなくてはいけません。状況次第では自己破産を余儀なくされることもあり得るため、自分や家族の生活にも甚大な影響を及ぼします。職や家を失うことにもなりかねないため、被害を最小限に食い止めたい場合は早めに弁護士に相談するのが重要です。
デメリット②協力者がいないと無理
合資会社を設立する2つ目のデメリットとして挙げられるのは「協力者がいないと無理」であることです。合資会社を設立するためには、それぞれ1名以上の無限責任社員および有限責任社員が必要になります。つまり、自分以外にもあと1人、設立に携わってくれる人が必要になるため、家族・親族・友人・知人などから募る必要があります。そして、無限責任社員・有限責任社員として携わるからには相応の責任を負うことになる以上、全員が快く引き受けてくれるとは限りません。
自分だけで会社を設立したいなら、株式会社や合同会社、合名会社などの形態も視野に入れましょう。
デメリット③知名度が低いため苦労する
合資会社を設立する3つ目のデメリットとして挙げられるのは「知名度が低いため苦労する」であることです。詳しくは後述しますが、会社を設立する際の形態として合資会社が選ばれることはほとんどありません。そのため、合資会社という会社形態があること自体を知らない人は一定数います。状況によっては、合資会社について詳しく説明するところから始めないといけない可能性もデメリットといえるでしょう。
あえて合資会社を設立すべきケース
法律上合資会社を設立すること自体はできるものの、実際はほとんど選ばれていません。ここでは、選ばれない事実を公的データにも触れながら紹介するとともに、それでも合資会社をあえて設立すべきケースについて紹介します。
合資会社を設立する人はほとんどいない
会社を新規で設立する際の形態として、合資会社が選ばれることは非常に少なくなっています。2023年の場合、新規で設立された法人の数は株式会社が100,669社、合同会社が40,751社であったのに対し、合資会社は17社に過ぎませんでした。
出典:登記統計 商業・法人商業・法人登記(年計表) 会社及び登記の種類別 会社の登記の件数 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口
つまり、よほどの理由がないと合資会社は選ばれないと考えてかまいません。
あえて合資会社を選ぶべき3つのケース
それでも、あえて合資会社を選ぶべきケースが存在するのも事実なので、具体的な事例を紹介します。
1つ目は、家族経営や少人数の経営など、小規模なビジネスを低コストで立ち上げたい場合です。株式会社とは異なり定款の認証が必要ない上に、電子定款を選択すればさらに費用は抑えられます。
2つ目として、明確な役割分担を決めて会社を設立したい場合が考えられます。合資会社は、無限責任社員が主に経営に携わり、有限責任社員は出資と最低限のチェックに徹するという形にしても特段問題ないためです。
3つ目として、いわゆる老舗の商店や、少人数の職人が会社を設立する場合が考えられます。このような会社では、ほぼ所有と経営が一体化している上に、伝統や文化を継承していくという意味ではあえて第三者が介入しないほうがうまくいくことが多いためです。
まとめ
法律上、合資会社を設立することはできますが、実際はほとんど用いられないのも事実です。それでも、あえて合資会社を設立することに意義があるケースもあります。会社を設立する際は、どの形態が適しているかも含めて事前に専門家に相談しましょう。
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