会社を設立する際、必ず作成する必要があるのが定款です。定款は、会社の基本的なルールを定めた、いわば会社の根幹ともいえる重要な書類です。
定款には、紙で作成する従来の方法と、インターネットを利用して作成する「電子定款」という方法があります。
電子定款は、紙の定款に比べて収入印紙代が不要になるなど、費用面や手続きの効率化において多くのメリットがあります。一方で、電子署名に必要なICカードリーダーやソフトウェアの準備など、オンライン特有の注意点も存在します。
本記事では、会社の設立を考えている方に向けて、電子定款の基本的な定義から、そのメリットやデメリット、そして電子定款の認証を受ける具体的な方法について、分かりやすく解説します。
電子定款とは?
電子定款とは、会社設立時に作成する定款を、紙ではなく電磁的記録で作成したものです。従来の紙の定款は、作成した書面に発起人全員が署名・捺印し、公証役場での認証を受ける必要がありました。
これに対し電子定款では、PDFなどの電子ファイルに発起人が電子署名を行い、オンラインで公証人の認証を受けることができます。
大きな違いとして挙げられるのは、収入印紙代が要るかどうかです。また手続きなどを効率化でき、さまざまな負担を軽減できるメリットがあります。
次の章で、電子定款のメリットとデメリットを詳しく解説します。
電子定款のメリットとデメリット
近年、さまざまな手続きが電子化されており、公的機関に出向かなくても手軽に手続きができるようになっています。電子定款もその一つです。しかし、メリットとデメリットが存在しますので、自身の状況や会社規模などに合わせた方法を選択しましょう。
電子定款のメリット
電子定款を導入する最大のメリットは、紙の定款に必要な収入印紙代4万円が不要になる点です。会社設立にかかる費用を抑えることができます。
また、手続きの効率化もメリットの一つです。紙の定款では作成した書面に発起人全員が署名・捺印し公証役場へ持参する必要がありましたが、電子定款は代表者一人の電子署名でよく、さらにオンラインで認証手続きを進めることができます。
これにより、印刷や郵送の手間や、公証役場に出向くといった負担が軽減され、時間や場所にとらわれずに手軽に手続きを進めることができます。
電子定款のデメリット
電子定款は、申請後の修正が原則として認められない点が挙げられます。紙が修正できるのに対して、オンライン特有のデメリットといえるでしょう。
一度申請してしまうと、記載内容に誤りがあった場合でも書類の差し替えや訂正が難しく、再度申請が必要となり、定款認証手数料3~5万円、保存手数料300円がかかります。申請前の十分な確認が重要です。
また、電子署名を行うためのツールの準備などもデメリットの一つ。具体的には、マイナンバーカードなどの電子証明書、それを読み取るためのICカードリーダー、そして電子署名を行うための専用ソフトウェアといった専用の機材が必要になります。これらの準備には手間と費用がかかります。
オンラインでの手続きに慣れていない人は、これらの準備を負担に感じるかもしれません。
電子署名に必要な準備
ここでは、電子署名を行うために具体的に何が必要なのかを解説します。電子証明書の取得方法、ICカードリーダーの準備と設定、専用ソフトウェアのインストール手順、そして利用するパソコンの環境確認について、それぞれ詳しく説明します。
準備の詳細を理解することで、電子定款の作成からオンライン申請までスムーズに進めることができるでしょう。
電子証明書(マイナンバーカード、商業登記電子証明書など)の取得
電子署名を行うためには、電子証明書の取得が必須となります。
個人が利用できる証明書としては、マイナンバーカードに搭載されている署名用電子証明書があります。これは、オンラインでの申請やそのほかの行政手続きに利用されており、電子定款の署名にも使用可能です。
また、代表取締役など法人の代表者が電子署名を行う場合には、商業登記電子証明書を利用することもあります。これは、法務局で申請、取得する必要があり、法人の代表者としての資格を証明するものです。どちらの電子証明書を利用するかは、申請者の状況や所有している証明書によって異なります。
いずれの電子証明書も、発行には手続きと時間がかかるので、電子定款の利用を検討する際には、早めに取得の手続きを進めることが重要です。有効期限があるため、期限切れにも注意してください。
ICカードリーダーの準備と設定
電子証明書を利用して電子署名を行うためには「ICカードリーダー」という専用の機器が必要になります。
これは、パソコンに接続することで、電子証明書が記録されているICカード、マイナンバーカードや商業登記電子証明書などの情報を読み取る機械です。
ICカードリーダーにはさまざまな種類があり、接続方式や対応するICカードの種類が異なります。自身のパソコンの環境や電子証明書の種類に合わせて、適切なICカードリーダーを選択する必要があります。また、ICカードリーダーをパソコンで使用するための設定、ドライバのインストールなどが必要となる場合があります。製品に付属している取扱説明書や、メーカーのウェブサイトなどを参考に、正しく設定を行いましょう。
設定が完了していないと、電子署名ソフトウェアがICカードを読み取れず手続きを進めることができませんので注意しましょう。
電子署名ソフトウェアのインストールと設定
電子証明書とICカードリーダーの準備が整ったら、実際に電子署名を行うためのソフトウェアが必要になります。オンライン申請は、「登記・供託オンライン申請システム」または、デジタル庁のマイナポータル「法人設立ワンストップサービス」から行います。
これらのソフトウェアを自身のパソコンにインストールし、初期設定を行う必要があります。設定では、ICカードリーダーとの連携や、電子証明書の認識などを行うため、ソフトウェアの指示に従って正確に操作を進めてください。
インストールや設定の手順は、各ソフトウェアの提供元のウェブサイトで詳しく解説されているので、参考にしながら慎重に進めることが重要です。設定が完了すれば、PDF形式で作成した定款に電子署名を行う準備が整います。
対応OSとブラウザの確認
利用するパソコンのOSとウェブブラウザが、ソフトウェアの推奨環境に対応しているかを確認しましょう。
例えば、公的個人認証サービスポータルサイトや登記・供託オンライン申請システムでは、特定のバージョンのWindowsやGoogle Chrome、Microsoft Edge、Safariなどのブラウザでの動作を推奨しています。推奨環境以外で操作してしまうと、正常に動作しなかったり、エラーが発生したりと問題が起こる可能性があります。
事前に各ウェブサイトの推奨環境を確認し、自身のパソコンの環境が適合しているかを確認しましょう。もし推奨環境でない場合は、OSやブラウザのアップデートを検討して別のパソコンを用意する必要があるかもしれません。事前にこれらを確認することが重要になります。
電子定款作成から認証までの流れとは
次に、電子的に作成した定款が認証を受けるまでの流れを解説します。オンラインでの申請準備から、公証役場での手続き、そして最終的な定款の受け取りまでの一連の流れを見てみましょう。
オンラインで定款の申請を行う
作成した定款をPDF形式に変換し、電子署名ソフトウェアを用いて代表者または発起人の電子証明書(マイナンバーカードなど)で署名を付与します。
この電子署名は、紙の定款における署名・捺印と同様の法的効力を持ち、作成者が本人であること、そして内容が改ざんされていないことを証明するものです。
電子署名が付与されたPDFファイルを、オンライン申請システムの案内に従ってアップロードします。
申請の際には、会社名や所在地、代表者の情報などの必要事項を入力する必要があります。入力内容に誤りがないか確認し、必要な添付書類があれば合わせて提出します。
オンライン申請が完了すると、受付完了の通知がシステム上に表示されます。この時点ではまだ認証は完了しておらず、次の公証役場での手続きへと進みます。
公証役場の予約を取る
次は公証人による認証を受けるために、公証役場へ連絡を取り、面会の日時を予約します。公証役場は全国にありますが、原則として会社の本店の所在地を管轄する公証役場での認証が必要です。
予約の方法は、電話やメール、公証役場のウェブサイトを通じて行います。予約の際には、「電子定款の認証を受けたい」旨と、オンライン申請を完了した日付、会社の名称などを伝えます。
予約を取る際に、必要な持ち物や指示をしっかりと確認しておくことが、当日の手続きをスムーズに進めるために重要です。予約が完了したら、指定された日時に必要な持ち物を準備して公証役場へ出向きます。
必要な持ち物を持参して定款を受け取る
面会当日は、事前に指示された必要な持ち物を忘れずに持参してください。
一般的に必要なのは、USBメモリ、定款をプリントアウトしたもの、発起人の印鑑証明書、認証手数料3~5万円、謄本手数料約2千円、身分証明書、印鑑、代理人の場合は、電子署名をした発起人以外の委任状です。
公証役場では、提出した書類とオンラインで申請された電子定款の内容が最終的に確認されます。公証人から定款の内容について質問されることもありますので、しっかりと答えられるように準備しておくとよいでしょう。
確認が完了し、問題がなければ、公証人の認証が付与された電子定款の謄本などが交付されます。受け取りの際には、書類の内容を確認し、受領書に署名・捺印を行います。これで、電子定款の作成から公証人による認証までの手続きは完了です。
電子定款作成にかかる費用
電子定款の作成と認証には、いくつかの費用が発生します。ここでは、電子定款作成にかかる主な費用について3つの費用別に解説します。
公証役場に支払う費用
先述したように、電子定款の認証手続きを行う際には、公証役場に対して手数料を支払う必要があります。株式会社の設立における定款認証手数料は3万円か4万円、または5万円です。この金額は会社の資本金額によって異なり、100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円となります。
加えて、電子定款の謄本を請求する場合には、「同一情報の提供」の代金として、追加で2千円程度が必要になります。
紙よりもコストの削減にはなりますが、電子定款の場合でも公証人手数料と謄本手数料はかかりますので、設立の費用や資金を検討する際にはこれらの費用も考慮に入れておきましょう。
必要な機器等の購入費用
前の章でも説明したように、電子署名を行うためには、いくつかの専用機器やソフトウェアを準備する必要があります。まず、電子証明書を読み取るためのICカードリーダーが必要です。家電量販店やオンラインショップなどで、数千円程度で購入できます。
また、定款をPDF形式で作成するためのPDF変換ソフトのAdobe Acrobatを購入するには、約3万5千円がかかります。これらの機器やソフトウェアの購入費用は、電子定款ならではのコストといえるでしょう。必要経費として見ておく必要があります。
専門家に依頼する費用
電子定款の作成や認証手続きに不安がある場合、司法書士や行政書士などの専門家に依頼するという方法もあります。専門家に依頼することで、複雑な手続きを代行してもらうことができ、時間や手間を大幅に削減できます。また、法的な観点からのアドバイスや、設立後の手続きなどのサポートを受けることができる場合があります。
専門家に支払う費用は、依頼する業務範囲や事務所によって異なりますので、見積もりをしてもらうことをおすすめします。
自分で手続きを進めるべきか、専門家に依頼するべきか。費用対効果を検討した上で、自身の状況に合った選択をすることが重要です。
まとめ
会社設立の重要なステップである定款作成において、電子定款がもたらすメリットとデメリット、そして実際に電子署名と認証を受けるための具体的な手順について、理解は深まったでしょうか。
定款は会社の根幹となる書面であるため、確実に申請や手続きを行わなくてはなりません。今回解説した電子定款は、印紙税の節約やオンラインでの手続きによる効率化など、多くの利点がある一方で、電子証明書の取得やICカードリーダーなどの準備といった特有の作業も必要となります。
電子定款の作成から認証までの流れを理解し、必要な準備をしっかりと行うことで、時間やコストを抑えスムーズな手続きができるでしょう。しかし、手続きで困った際には、専門家への相談もおすすめします。
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会社設立後に顧問契約を強制するといったこともありませんので、会社設立を検討している方はぜひお気軽にご相談ください。