会社設立時は何かと調達すべきものが多い以上、ある程度の出費は覚悟しなくてはいけません。しかし、国や地方自治体が運営する補助金・助成金制度を使えば、負担を抑えることができます。
この記事では、会社設立時に利用できる補助金・助成金について、申請方法や利用する際のポイントも絡めて解説するので、参考にしてください。
会社設立時に利用できる補助金・助成金
まず、国が実施する補助金・助成金制度で、会社設立時に利用できるものを10種類紹介します。
【補助金】事業承継・M&A補助金
事業承継・M&A補助金とは、事業承継を機に経営革新等に取り組んだり、事業再編・統合に伴う経営資源の引き継ぎを行ったりする中小企業等を支援する制度です。「専門家活用枠(買い手支援類型、売り手支援類型)」「事業承継推進枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ」の4類型がありますが、毎回すべての枠で公募があるとは限らないため注意してください。
なお、2025年4月18日に公開された11次公募要領では、「専門家活用枠(買い手支援類型、売り手支援類型)」のみの公募となっています。
補助対象者や補助対象事業をはじめ、利用に当たっての要件がかなり細かいため、最新の公募要領を確認した上で税理士など事業承継・M&Aに精通した専門家にも相談し、準備を進めましょう。
参照:事業承継・M& A補助金
【補助金】小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者が販路の開拓や生産性の向上を目指して行う取り組みを支援する補助金制度です。ビジネスの認知や顧客の獲得、売上を向上させるための広告宣伝、Webサイト運営やECサイト構築、チラシの作成や展示会・イベントへの出展などに活用できます。
なお、第17回公募における通常枠の概要は以下のとおりです。
補助上限
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50万円(インボイス特例・賃金引上げ特例を利用した場合は最大250万円)
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補助率
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2/3(賃金引上げ特例活用事業者のうち赤字事業者については3/4) |
対象経費
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機械装置等費、広報費、ウェブサイト関連費、展示会等出展費、旅費、新商品開発費、借料、委託・外注費 |
ほかにも災害支援枠、創業型、共同・協業型の申請枠が設けられており、それぞれ対象経費や事業などが異なります。自分がやりたいことに照らし合わせた場合、どの申請枠が適しているかを含めて早めに商工会や商工会議所に相談しましょう。
参照:⼩規模事業者持続化補助金のご案内 | 補助金活用ナビ(中小機構)
【補助金】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金とは、中小企業や小規模企業者が革新的な新製品・新サービスを開発したり、海外事業を展開したりするために設備投資・システム導入を行う場合に利用できる補助金です。
国内での新製品・新サービスの開発を前提にした「製品・サービス高付加価値枠」の場合、概要は以下のようになっています。
補助上限額 | 最大2,500万円(従業員数に応じて750万~2,500万円) |
補助率 | 中小企業:1/2、小規模事業者:2/3 |
対象事業 | 生産性向上に資する革新的な新製品・新サービス開発のための設備投資など |
対象経費 | 設備投資費、システム構築費、試作開発費、外注費など |
なお、採択率は36%(18次公募、製品・サービス高付加価値枠の場合)と決して高くないため、専門家と相談の上、入念に準備することが重要です。
参照:ものづくり補助金のご案内 | 補助金活用ナビ(中小機構)
【補助金】IT導入補助金
IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上のため、業務効率化・DX化に対応したITツールの導入を支援する目的の補助金です。2025年の場合、申請枠には以下の5種類があります。
- 通常枠
- インボイス枠(インボイス対応類型)
- インボイス枠(電子取引類型)
- セキュリティ対策推進枠
- 複数社連携IT導入枠
通常枠の場合、以下の内容で補助を受けることが可能です。
補助額 | 5万円~150万円未満 | 150万円~450万円以下 |
機能要件 | 1プロセス以上 | 4プロセス以上 |
補助率 | 1/2以内
※3カ月以上、地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員数が全従業員の30%以上であることを示した場合は、2/3以内 |
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補助対象経費
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ソフトウェア購入費、クラウド利用費(クラウド利用料最大2年分)、導入関連費 |
なお、この補助金を使うためには、対象となるITツールを選んだ上で、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」を通して申請しなくてはいけません。現実的には、まず利用したいITベンダー・サービス事業者が「IT導入支援事業者」として登録されているかを調べ、IT補助金を使いたい旨を伝えて調整していくことになります。
「IT導入支援事業者」の一覧は公式Webサイトから確認できるので、まずは調べてみましょう。
【助成金】地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)
「地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ型)」は、中小機構と都道府県、金融機関等が資金を拠出し、ファンド(基金)を作り、その運用益を中小企業や小規模事業者への助成金として使う事業です。
出典:地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型) | 経営にお悩みの方へ | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
一定の条件を満たす中小企業や小規模事業者等が、ファンド運営管理法人(※)に申込をし、対象事業として採択されれば、資金の助成を受けられます。
ただし、すべての都道府県がこの事業に参加しているわけではありません。2025年4月現在、近畿エリアでは兵庫県と和歌山県に限られています。自分が起業する都道府県でこの事業が導入されているかをまずは確認しましょう。
参照:地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型) | 経営にお悩みの方へ | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
起業した後、やむを得ず事業活動を縮小することになった場合に利用できるのが雇用調整助成金です。一定の条件を満たす雇用主が経済上の理由により事業の縮小を余儀なくされた場合、以下の内容で休業、教育訓練、出向に要した費用の助成が受けられます。
助成率
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中小企業:2/3
大企業:1/2 |
助成額 | 1日1人あたり上限8,635円 |
支給日数の上限 | 年間100日(3年間で最大150日分) |
※令和6年能登半島地震の災害に伴い、助成率・支給日数の引き上げなどの特例措置が取られている
【助成金】働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)とは、生産性を向上させ、時間外労働の削減や、年次有給休暇や特別休暇の取得促進に向けた環境整備を行う事業主に対する助成金です。労務管理用ソフトウェアの導入・更新など、所定の事業を実施した場合に、実施に要した経費の一部が成果目標の達成状況に応じて支給されます。
参照:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) |厚生労働省
【助成金】キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者(契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など)のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した場合、事業主(企業)に対し、一定の条件で助成を行う制度です。キャリアアップ助成金の助成内容は「正社員化支援」「処遇改善支援」のどちらを行うかによっても異なります。例えば、非正規雇用労働者を正社員化した場合、1名あたり最大80万円の助成を受けることが可能です
なお、この制度を利用するには、まず労働局・ハローワークにキャリアアップ計画の作成・提出を行う必要があるため、早い段階で相談してみましょう。
【助成金】地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)とは、特定の地域で雇用を生み出す事業者に対する助成金です。起業したてのときだけでなく、ある程度事業が軌道に乗ってきたときにスタッフを増やす際にも利用できます。助成金の支給額は、労働者の増加人数と対象となる経費の合計額により変動する仕組みです。これらの額を1年ごとに、最大3回まで支給が受けられます。
※中小企業事業主の場合、1回目の支給においては1.5倍もしくは2倍(創業と認められる場合)の額が支給される。
ただし、雇用機会が特に不足している地域に対する支援策という意味がある以上、この助成金が利用できる地域は限られる点に注意が必要です。
地域独自の補助金・助成金も会社設立時に使うべき
都道府県、市町村などの地方自治体でも、独自の補助金・助成金制度を設けていることがあるため、条件に合えばチャレンジしてみましょう。ここでは、兵庫県の自治体が実施している補助金・助成金制度を3つ紹介します。
【兵庫県】移住支援事業・マッチング支援事業
兵庫県および同県内の37の市・町では、東京圏から移住し、就業・起業するなど一定の条件を満たした人に対し、単身世帯であれば60万円、2人以上の世帯であれば100万円(18歳未満の子どもがいれば1名につき30万円または100万円加算)の移住支援金を支給しています。
なお、起業に当たってこの制度を使いたい場合は、兵庫県が実施する「起業家支援事業(社会的事業枠)」に採択されなくてはいけません。事前に公益財産法人ひょうご産業活性化センターにその点も含めて相談しておきましょう。
参照:兵庫県/兵庫県移住支援事業・マッチング支援事業について
【伊丹市】創業支援補助金
伊丹市では、市独自の制度として「創業支援補助金」を実施しています。これは、伊丹市が実施する「特定創業支援等事業」に関連したものです。同市内を拠点に起業をする人に対し、特定創業支援等事業を受講するなど所定の条件を満たせば、特定創業支援等事業の証明書を交付しています。
特定創業支援等事業の証明書があれば、以下の特典を受けられる上に「創業支援補助金」に応募することが可能です。
- ・会社設立時の登録免許税の軽減
- ・創業関連保証の特例
- ・新規開業資金(日本政策金融公庫)を利用する際の貸付利率引き下げ
「創業支援補助金」に採択されれば、対象経費の2分の1相当額(上限50万円)の補助が受けられます。なお、補助対象経費は以下のとおりです。
出典:特定創業支援等事業について ~伊丹市が発行する証明書により登録免許税の軽減等の創業に関する優遇措置が受けられます~/伊丹市
特定創業支援等事業の証明書を取得することも含め、早い段階から相談しておくと何かと役に立つはずです。
参照:創業支援補助金/伊丹市
【姫路市】オフィス立地促進補助金制度
姫路市では、市独自の制度として、同市内の空きオフィスビル等に事業所を構える場合、一定の条件を満たすことで賃料等費用の一部を助成する「オフィス立地促進補助金制度」を設けています。なお、この制度を利用する場合、兵庫県の要件も満たすことで、兵庫県および姫路市の両方から補助金を受けることが可能です。
賃料に関しては、1年度あたり姫路市からは最大で100万円または200万円、兵庫県からは100万円、3年間補助を受けられます。なお、補助金に応募するためには事前協議が必要になるため、一度姫路市の担当部署(姫路市 観光経済局 商工労働部 企業立地課)に相談してみましょう。
会社設立時に補助金・助成金を使う際のポイント
補助金・助成金は便利な制度ですが、事前に計画を立てずに使おうとしても決してうまくいきません。ここでは、会社設立時に補助金・助成金を使う際のポイントを解説します。
補助金と助成金の違いを理解する
まず、補助金と助成金の違いを理解しましょう。補助金は基本的に、事業に対して行われる支援である上に、審査に通らなくては受給できません。一方、助成金は従業員の雇用など、人に対して行われる支援であり、基本的には条件を満たせば受給できます。
ただし、本来は補助金(助成金)の性質を持つものを「助成金(補助金)」といっていることもあるため、事前に内容を確認しましょう。
必要書類は漏れなく準備する
基本的なことではあるものの、必要書類を漏れなく準備してください。必要書類がそろっていなかったり、誤字・脱字などが多かったりすれば、申込自体ができない・採択されないなどのトラブルにつながります。締め切りギリギリの提出にならないよう早い段階から取り組むとともに、第三者によるチェックも受けましょう。
基本的に後払いであることに注意する
補助金・助成金は基本的に後払いです。つまり、対象となる事業をまず申請者が自費で行い、事業の完了報告をした後に補助金・助成金が支払われます。不正防止や実行確認の観点からこのような流れになっていますが、まずは自分で立て替える必要があることに注意してください。
制度の変更・打ち切りもあり得る
補助金・助成金の制度自体が変更になったり、打ち切られたりすることも十分にあり得ます。補助金・助成金を使いたい場合は、官公庁や地方自治体などの運営元に問い合わせ、常に最新の情報を手に入れましょう。
公的窓口や専門家に相談する
補助金・助成金の申込をする際は、たくさんの書類を正確に作らなくてはいけません。しかし、経験がなければそもそも何を書けばいいのかすら分からないはずです。商工会議所や商工会、都道府県の担当窓口などの公的機関や税理士・司法書士・行政書士などの専門家に積極的に相談しましょう。
まとめ
補助金・助成金には基本的に返済義務がないため、会社設立時はもちろん、折に触れて使うことで資金面の負担を大幅に抑えられます。しかし、制度が頻繁に変わる上に、手続きも複雑であることに注意しなくてはいけません。自分だけですべてをこなすのには無理があるため、適宜公的機関や専門家に相談してみましょう。